政府は、本国会の予算審議の状況をにらみつつ5月連休頃までには安全保障 に関する法案群を一括提出する、と言っているようです。平然と「与党と協議 をしているところだ」ともいいます。・・・・えッ? 自民党・公明党と一緒 になって法案を詰めて国会審議にかけ、頃合いをみて秘密法のときの様に強行 採決ということ? こんなこと許せません。
【集団的自衛権の行使容認の「閣議決定」が火種となっている安全保障法制】
さて、問題にしている安全保障法制って、いったい何だったかしら。・・・ 昨年7月1日の閣議決定が、その火種です。
閣議決定といえば、「行政権の中枢=内閣」による行政方針の決定のことで す。その閣議決定(標題 「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のな い安全保障法制の整備について」 )で、次のようにいったわけです。「閣議決定」をかいつ まんで整理します(A、B、C、D、E)。
A 前文から~
「・・・これまで与党において協議を重ね、政府としても検討を進めてきた。 今般、与党協議の結果に基づき、政府として、以下の基本方針に従って、国民 の命と平和な暮らしを守り抜くために必要な国内法制を速やかに整備すること とする」
B 本文中、「武力攻撃に至らない侵害への対処」から~
我が国の防衛に資する活動に現に従事する米軍部隊に対して攻撃が発生し、それが状況によっては武力攻撃にまで拡大していくような事態においても、自 衛隊と米軍が緊密に連携して切れ目のない対応をすることが、我が国の安全の確保にとっても重要である。・・・・・我が国の防衛に資する活動(共同訓練 を含む)に現に従事している米軍部隊の武器等を守るためであれば、自衛隊で武器を使用できるように法整備をする。
C 本文中、「国際社会の平和と安定への一層の貢献」から~
① 自衛隊が活動する範囲を、従来の【後方地域】、【非戦闘地域】といった 範囲に区切るのではなく、他国が【現に戦闘行為を行っている現場】ではない場所であるならば、その他国軍隊に対して必要な支援活動を実施できるようにするための法整備を進める。
② 自国領域内に所在する外国人の保護は、国際法上、当該領域国の義務であ るが、多くの日本人が海外で活躍し、テロなどの緊急事態に巻き込まれる可能性がある中で、当該領域国の受入れ同意がある場合には、武器使用を伴う在外邦人の救出についても対応できるようにする必要がある。
D 本文中、「集団的自衛権」から~
・・・我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接 な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅か され、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険が ある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために 他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の 政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容される と考えるべきであると判断する。
E まとめ文から~
・・・実際に自衛隊が活動を実施できるようにするためには、根拠となる 国内法が必要となる。政府として、以上述べた基本方針の下、国民の命と平和 な暮らしを守り抜くために、あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする法 案の作成作業を開始することとし、十分な検討を行い、準備ができ次第、国会に提出し、国会における御審議を頂くこととする。
7月1日の「閣議決定」は、このような内容です。 要は、「戦争する国」、「戦争に出かける国」づくりを宣言したのです。
【「戦争しない国」は、国際公約になり、市民の力で守ってきた】
平和主義をいった憲法前文、9条を骨抜きにして、軍事力とそれによる威嚇力を強めることで世界の中の「プレゼンス」(存在位置)を得ようというのでし ょうか。逆に世界の信頼を失う危険な道じゃないか、と考えないのかしら。
政府は、「我が国の存立と国民を守るには、この方法が最善だ」「これしかない」「改憲の道半ば」というでしょう。だが、まさに、我が国の存立と国民を守るに、軍事力によってはならんのですよね。軍事力によるなんて思いつくこともないぞと決めたのが、日本国憲法です。
その憲法前文では、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよ うにすることを決意し」「平成を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの 安全と生存を保持しようと決意した」といっています。過去の戦争の加害、被害の強い反省から、9条で「戦争しない国」を明記しました。これによる道徳的権 威と冷静な外交努力によって平和を維持すると、覚悟させたのではなかったか。
「平素から軍事力を増強し、どこにでも出かけることによってわれらの安全と生 存を保持しよう」なんてことは、絶対しない。戦争しない国は、国際公約になったし、市民の力で守ってきたもののはず。日本国民の矜持のはず。 閣議決定は、歴史を省みない亡国の道といえます。限りなく危険な道です。
【安倍政権はどういう法律をつくろうとしているか】
さて、戦争できる法をつくるというのが閣議決定ですから、先ずは、自衛隊法 を改変することをするはずです。・・・真っ先に、「我が国と密接な関係のある 国に対して武力攻撃があったときには出動できる」との規定を挿入するでしょう。 その出動用件は、何とでも解釈できるようにするために抽象的文言のままにする かも知れません。
さらには、米軍の防護、警護のための武器使用を認めるとも定めるでしょう。 あるいは、先のイスラム国による日本人殺害の事件の経験から、「在外邦人が生命の危険にさらされた場合に、自衛隊を派遣させる必要がある。切れ目のない 対処のための法案」も登場させるでしょう。・・・実際に、この論議が国会で 始められています。
【現実の戦闘地域】で実行するというのでないかぎりは、広く他国のための軍事支援行動ができるというような軍事支援特別法案をつくるでしょう。
【一内閣の判断で最高法規の憲法の解釈を勝手に変えるということがそもそもの大問題】
私たちは、この憲法破壊の政治に抗して、今、何をすべきでしょうか。 それを考える前に、いやーな不安について書きたいと思います。・・・民主党の代表選挙がありましたが、そのときのある候補が「今の国会状況では、闘い切れない。だから、現実的な選択をしていくしかない」との趣旨を述べていたのを TVでみてしまったときの不安です。
「閣議決定」、一内閣の判断で最高法規の憲法の解釈を勝手に変えるということがそもそもの大問題ですが、現状では、国会に法案群が登場してしまえば、「そもそも、閣議決定が誤りだ。 こんな法律を作ることはおよそ許さない」というそもそも論を、国会内で十分に 展開できるだろうかという不安。
野党の中からも錘(おもり)になるものが登場するかも知れない。 与党内で、リベラルを装う演技者も登場するだろう。高めの値札を貼っておいて、いかにも値引き交渉に応じるといった演技。下りのエスカレーターに一緒に 乗っておきながら、上を向いてみせたり、1、2歩上に向かって歩いてみせたりという体だ。市民の目を眩ます戦法だ。
今から閣議決定を権威化しておこうという類の報道もあります。「政府は閣議決定をふまえた法案の作成にあたって、十分な時間をかけることとしています。 〇〇党に対しては慎重な説明をなし、その了承を求めることとしています」という類だ。
【「憲法破壊法案」が出る前から、「戦争する国絶対反対」「9条守れ」の大運動を】
こんな諸処の不安材料をばらまかれると、「閣議決定がすでに出ているのです。だから、国会では、その閣議決定に忠実 な法案になっているのか、閣議決定を飛び越えてしまうほどのひどい法律になっているのかという視点で審議、検討するだけで良い」という論調、空気にされていってしまわないだろうか。「閣議決定ありきの議論」に歪曲されてしまう危険 はないだろうか。
そうなってしまっては、そもそも論の国会議論の余地も奪われるかも知れない。 憲法破壊法案だという主権者である私たちの声が、その国会審議の場で生かされないかも。
いや、そうはさせまい。 私たちこそが、「法案攻撃」が出る前から、戦争する国絶対反対! 戦争する国にする閣議決定を撤回せよ!との声を上げ続けなければいけないのだ、と気づきました。
今こそ、そもそも論、原則論、9条守れ!の大運動が必要なんだ、と思います。
(元長野県弁護士会会長・和田清二)
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