『戦争なんか大きらい!絵描きたちのメッセージ』について(岩下結さん、長野県佐久市出身)

東京の出版社で編集をしている岩下といいます。

先日、『戦争なんか大きらい!絵描きたちのメッセージ』という本を出版させて

もらいました。これは、2015年に子どもの本・九条の会が企画して、絵本作家61人が

描いた平和のメッセージ画に、日本国憲法の条文をそえた画集です。

 

先日亡くなられたかこさとしさんをはじめ、「ぼくは王さま」の和歌山静子さん、「ねないこだれだ」のせなけいこさんといった日本を代表する絵本作家も参加されています。

本にするにあたって、全体を貫くものがほしいと思い、憲法の条文の抜粋を絵と組み合わせました。やってみると、自分でも驚くほど、絵と条文が呼応して憲法そのものが生き生きとしたメッセージとして読めるものになりました。

たとえば、かこさとしさんの「だるまちゃん」が、戦車や兵器を踏み潰して高々とこぶしを

突き上げている絵には、前文の「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」という一文。

長谷川義史さんの、家族がちゃぶ台でごはんを食べている絵には「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」という一文を合わせました。

出版してから、「憲法の条文がまったく違った新鮮さで読めた」「ページを繰っていて涙がこみ上げてきた」といった感想をいただいています。

ご興味ある方は、ぜひ本屋さんで実物をご覧になってください。

 

憲法の条文と絵を組み合わせるアイディアは、たまたま思いついたのですが、後から考えると実は必然性があったように思います。

この本の序文に、『おしいれのぼうけん』などの作家、田畑精一さんが、軍国少年だった

ご自身の少年時代をふりかえってこう書かれています。

 

「戦争は、人と人との殺しあい。大勢の人が死にます。死ぬのを恐れていては、戦争は始めから負けです。それでいっぱい美談が生まれたのです。(中略)戦争が始まった年に生まれたぼくのまわりには、こうして「いさぎよく死んだ軍人の物語」で満ち満ちていたのです。ですからあの戦争が、間違った戦争だと知るのには、ずい分長い時間が必要でした。」

 

戦前は、子どもの本に限らず、多くの出版社が戦意高揚のための本をつくり、外国への敵意を煽り、日本は神の国で絶対に負けないのだと宣伝しました。

いま本屋さんに並ぶ「ヘイト本」や「日本スゴイ本」にも似ています。

そうした本を読み、学校でも戦争で死ぬことを教えられて育った若者たちが実際に数多く

亡くなりました。あるいは、多くの人を殺しました。

銃後でそれを後押しした人も、止められなかった人もいました。

その悔恨が、日本国憲法には刻まれています。

 

戦争を体験し、二度とあのような時代をくりかえしてはならないと誓った人びとが、

戦後の民主化、そして出版や教育を担ってきました。おそらく、子どもの本を通じて

これだけ戦争や平和を描いてきた国は、世界でも稀ではないでしょうか。

僕たちが読んできた絵本や漫画の作者たちの多くが、そうした思いを原点に持っていた。

だとすれば、それが平和憲法の条文とシンクロすることは当然かもしれません。

 

安倍首相は次の国会にも改憲案を出すと息巻いています。3分の2議席がある今のうちに、

どんな手を使っても強引に改憲を発議しようということです。

しかし、僕はそんな手法で改憲を実現することは不可能だと思っています。

 

この憲法は、数百万の自国民の命と、それに十倍する他国民の命を奪い、国を滅亡寸前まで

追いやった過去への深い反省と悔恨が刻まれています。

その反省に基づいて、平和で民主的な国家を作ろうと国民は努力してきました。

もちろん、それは完全ではなかったかもしれません。日米安保と沖縄の基地をはじめとする

矛盾も存在します。しかし、矛盾をかかえているとしても、73年にわたるその歩みを

なかったことにはできないのです。

 昨日思いついたような改憲案で、その歴史が凝縮された憲法を変えてしまうことが

どれだけ愚かしいか。多くの国民は気づくはずだと思います。

 

僕たちが読んで育ってきた絵本の数々。あるいは、手塚治虫や藤子不二雄といった

日本を代表する漫画家たちの作品。ひとつとして、戦前のほうがよかった、戦争をまたやろう、などと言っているものはありません。

70年かけて築いてきた平和の文化は、私たちの精神の根本にまちがいなく食い込んでいます。そのことに私たちは誇りを持っていいと思います。

 

仮に国民投票が行なわれたとしても、私たちは臆することなく堂々と否決に追い込みましょう。

安倍さんがいかに外国の脅威や自衛隊員への情に訴えたとしても、歴史の重みに勝つことは

できません。それを思い出させてくれる文化の力は、私たちに味方してくれるはずです。