私たちの取り組みについての記事です。
<争点の現場から>(1)自衛官募集 名簿提供 改憲狙い?疑問の声:参院選2019:中日新聞(CHUNICHI Web) https://www.chunichi.co.jp/article/senkyo/kokusei201907/nag/CK2019070102000276.html
平和は外交によって、自衛隊は海外派遣ではなく災害派遣で活躍してほしい、が私たちの願いです。手続きさえもなし崩しにする、海上自衛隊の中東派遣には反対です。
安倍首相は、今年2月の党大会でこう発言しました。
“残念ながら、新規(自衛)隊員募集に対して、都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい実態があります。地方自治体から要請されれば自衛隊の諸君はただちに駆けつけ、命をかけて災害に立ち向かうにもかかわらずであります。皆さん、この状況を変えようではありませんか。憲法にしっかりと自衛隊と明記して、違憲論争に終止符を打とうではありませんか”
この言葉の中にはいくつかの問題を含んでいます。
改憲と自衛隊員募集の問題はまったく別です。
改憲は国の問題であり自衛隊員募集は地方自治体の問題です。
もし改憲で自衛隊員募集に強制性をもたせるなら、それは募集ではなく徴兵です。
自衛隊員の採用は2014年から4年連続で計画を割っていますが、2011年東日本大震災の時には自衛隊を改めて見直す国民が増えました。僕も自衛隊に入って困っている人を助けたい。又は息子を自衛隊に入れたいと思っている方が沢山いたと聞いています。
では、自衛官への応募が募集数に満たない実態というのはなぜでしょうか?自衛隊が海外で武力行使する危険性が高まっていることへの危惧が反映しているのではないでしょうか。
安保法制で隊員希望者が減ったのは国の責任です。ですからこれは地方自治体に責任を転嫁する発言です。
しかも、6割以上が協力を拒否しているとウソをついています。
実際には、2017年度の全国の1741市区町村の対応は「名簿提出」が36%、「該当者を抽出した名簿の閲覧を認める」は34%、「該当者を抽出せず閲覧を認める」は20%、「いずれの対応もない」は10%となっています。約9割が募集に協力しています。
政府は自治体に、若者の「名簿提出」を強要しています。住基法は「閲覧」こそ認めていますが、「名簿提出」までは認めていません。
信濃毎日新聞2月17日では「自衛隊長野地方協力本部(長野市)によると、長野県内77市町村のうち、18年度に紙媒体で情報提供したのは44市町村、閲覧や書き写しを認めたのは33市町村で、全市町村が協力」とありました。
「閲覧」とは、一般に「図書や書類を調べ読むこと」ですが、「名簿提出」すなわち「提供」は、「さし出して相手の用に供する」と、より積極的な行為を意味します。
自治体の持っている情報は自治体のものではなく私達個人のものです。ましてや政府のものではありません。
私たち個人の情報に対して市民からの声が上がってもそれを無視するとすれば、本来の地方自治の在り方に背いています。
安倍首相は防衛大臣による名簿の紙媒体での提供要請に対し6割の市町村が閲覧にとどめていると問題視し、憲法改正を主張していますが、憲法問題を理由に紙媒体での名簿提出を行っていない自治体はありません。住基法は「閲覧」こそ認めていますが、名簿「提供」までは認めていません。市町村が紙媒体での提出ではなくて閲覧を認めるにとどめていることの理由は、個人情報保護が理由です。
地方自治体が個人情報保護を求める住民の声を尊重して、地方自治の立場から閲覧にとどめていることに対し、安倍首相が憲法改正まで口にするのは、地方自治や人権よりも防衛省・自衛隊の要請が上だと言っているようなもの、民主主義を認めず憲法をないがしろにする発言です。
11月17日、自治体の現職の首長や首長経験者が『全国首長九条の会』を結成しました。会には現職や元職の首長131人が賛同しています。「憲法と地方自治を踏みにじる行為に反対する。住民と力を合わせて運動を進める」というアピールを採択し、自衛隊員募集の自治体への強制反対を訴えています。「自衛官募集業務の強要は、国と地方は対等・協力の関係にある地方分権の原則を踏み外した判断」と指摘しています。
滿蒙開拓平和記念館のある長野県阿智村の前村長の岡庭一雄さんも共同代表のひとりです。 戦前の地方自治体は、国の出先機関として戦争遂行の一翼を担わされました。 国の言う通りに追随していたら、自治体は、戦争荷担の、侵略の先兵になってしまう。これが満蒙開拓団に多くの人々を送り込んだ長野県、市町村の教訓です。 長野県は国策の満州国建設の為、全国でも群を抜いて約3万3千人余りの県民が村を上げて開拓団として、満州に渡りました。校長の指示のもと担任の先生が説得し青少年義勇軍となった生徒も含まれていました。「幸せになれる」という国策のもとで、渡った満州で待っていたのはソ連侵攻と死の逃避行でした。
長野県中野市・東山公園の高社(こうしゃ)郷(ごう)開拓団の慰霊塔には、「終戦も信じられず集団自決した六百余名の霊を慰めんとしてこの碑を建立(こんりゅう)す」と刻まれています。
アジア太平洋戦争の反省から、憲法92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」とし、住民自らが行う住民自治と自治体自ら権限と責任をもつ団体自治を原則としています。国の主権者は国民で、自治体の主権者は住民です。決定権は住民にあります。国家が決定するわけではありません。
地域の人の意見を聞きながら地域で決めていく。問題が出れば一旦止めてでも話しあう。これが地方自治の本来の形です。
自分の暮らす市町村ではどうなっているんでしょうか。
先の信濃毎日新聞の記事によると、札幌市は「個人情報保護は憲法改正とは別の議論だ、仮に改正されても直ちに名簿を提出することは難しい」、大津市は「名簿の提出に条例で定める相当の理由があるかどうかが問題だ、自衛隊が明記されても対応は変わらない」などと述べています。
防衛省が名簿の提出を求める根拠とするのは、市町村が「募集に関する事務の一部を行う」と定めた自衛隊法と、市町村に「募集に関し…資料の提出を求めることができる」とする自衛隊法施行令ですが、提出に応じる義務は明記されていません。
朝日新聞2月25日によると、閲覧で対応する宮城県の自治体の担当者は「閲覧なら住民基本台帳法で手続きが決まっているが、名簿提出の具体的な手続きを定めた法律は見つからなかった」と困惑し、同じく宮城県のある町の担当者は「『協力を拒否』という表現はおかしい。県や民間企業にも同じように閲覧で対応しているのに、写すのが大変だからという理由で、自衛隊だけを特別扱いできない」と反論しています。
3月15日の神奈川新聞によると、これまで名簿を提出していた神奈川県葉山町の山梨崇仁町長は「(法的根拠とした自衛隊法や住民基本台帳の)法令解釈に不明瞭な点がある」とし提出を取りやめる考えを示しました。
自衛隊に名簿を提供している自治体は、提供している事実を公表しない傾向もあります。「自衛隊法に基づく情報提供のため、住基台帳法の公表義務はない」との見解も聞きましたが、住基台帳法が閲覧者の公表を求めるのは、市民が自分の情報がどう扱われたかを知る権利を保障するためです
私たちは、学習会やデモ、スタンディングなどで日頃活動をともにする弁護士や「安保関連法に反対するママの会信州」有志、「憲法かえるのやだネット長野」有志などで「自衛官募集問題を考える長野県民の会」を結成し、市町村役場に電話で問い合わせをする取り組みをはじめました。「会」をつくったきっかけは、先の信濃毎日新聞の報道の「自衛隊長野地方協力本部によると、長野県内77市町村のうち、18年度に紙媒体で情報提供したのは44市町村」に、こんなにたくさん情報提供しているのかという驚きと、その市町村がどこなのかがさっぱりわからない不気味さでした。 5月7日に会を立ち上げました。会議はフェイスブックのグループメッセンジャーでおこなっています。
「会」は、20代~60代で構成、中心は、日常的にメッセンジャーでやりとりしている30代40代です。「会」では、「憲法かえるのやだネット長野」のホームページやSNSを使って、市町村の調査活動の協力もよびかけました。地味に注目を集め、自分の住んでいるところに電話をかけてくれる市民や、地方議員の協力も広がりました。取り組みをすすめて交流するなかで「こういう角度が必要ではないか?」と話し合いながら、問い合わせマニュアルも作成しました。
担当課が分からなくても、「自衛隊への名簿提出にかかわって」と、要件を伝えると担当課にまわしてもらえます。名前を名乗らなくても問い合わせできます。問い合わせはメールでもできます。市町村への申し入れや請願・陳情の例文作成もすすめました。
この取り組みで77市町村のうち、31市町村の実態がわかるようになりました。現在は、引き継ぐ形で、県高等学校教職員組合が、全市町村の全容解明をすすめています。
5月18日、30人以上が集まって長野駅前で街頭宣伝もおこないました。4人が「政府が自治体に召し出せ、提供しろという名簿は、ひとりひとりがその人らしく大切にされ、自由に生きていく権利を持つ若者たちの命の名簿」「強制動員、『徴兵』の流れを危惧しています」「過去の戦争の教訓を学び、市町村の対応に関心をもって『紙媒体、データで提供しないでください』と声を上げていきたい」「日本国憲法は、人が互いに尊重し合い幸せを追求する権利を保障してくれています。治安維持法への反省があったからです。そのために権力を監視し暴走を阻止する力をもっています。私たち市民は国を見て県政を見て市町村の政策を見て、考えて行動していく時だと思います。ただ国の言うなりになっていないか。地域に住む人の意見を聞ける自治体なのか」などと訴えました。
6月19日、小川村議会が、私たち「自衛官募集問題を考える長野県民の会」で提出した紙媒体での適齢者名簿の提供のとりやめを求める陳情を全会一致で可決しました。
小川村は、昭和14年3月に北小川、南小川両村長の松本和禧(かずき)、松本三男の両氏が現地の視察を行い、帰ってきて、満州国移民の分村計画を中止にしました。小川村誌には「この確固とした計画を中止したことは今にして考えまことに時宜(じぎ)を得た決断というべきであり改めて感謝の意を表したい」と記されています。
自分の目で見て、自分の頭で考え、良心に従う歴史が、今なお息づいています。
長野市議会への請願、千曲市議会への陳情は、それぞれ否決となりましたが、「条例に基づく個人情報の利用停止請求が行われた場合は、請求者の個人情報の提供をとりやめ」ることが確認されました。
また、長野市議会総務委員会で、2018年度、自衛隊長野地方協力本部が10~20代に送ったはがきで、紙媒体で提供した市町村もあるのに、一律「閲覧を通じて入手」と誤った記載をしていたことが発覚しました。長野市は紙媒体での提供です。自衛隊長野地方協力本部は「不正確だった」と認め、今後は訂正する方向を検討となりました。個人情報への感覚がずさんで驚かされます。
日本国憲法が私たちの根っこにあります。幾度も学習会を繰り返し、子ども達の事、学校の事、職場の事、環境の事など普段の生活の中で疑問に思った事を話し合っています。私たち住民は国を見て、県政を見て、市町村の政策を見て、考えて行動していく時だと思います。ただ国の言うなりになっていないか。地域に住む人の意見を聞ける自治体なのか。
動かしていけるのも、また私たち住民です。
最後に、先日亡くなられた医師中村哲さんの言葉から学びたいと思います、
2007年の朝日新聞からの抜粋です。
“9・11テロの後、米国の空爆を日本政府が支持した直後から、アフガニスタン国内の対日感情が急速に悪くなるのを感じた。
(ペシャワール会の日本人スタッフが現地の人々と力を合わせて築いた13キロの用水路で)約6千ヘクタールに水が届く。続いて第2期7キロの建設に取りかかる。2年後の完成でさらに約1万ヘクタールの砂漠を緑化できる。13キロ分の建設費8億円は、趣旨に賛同した日本の方々から寄せられた。これで十数万人の離村を防ぐことができた。水を得て、パキスタンの難民生活から村に帰った農民は「貧しくても、自分で働いて食うことは、難民生活よりも1千倍ましだ」と、喜んでいた。
日本政府がした「国際貢献」は、旧欧米列強の発想を引きずっているとしか感じられない。かえってアジアで普通に暮らす人々の反感を買った。その資金を真の友好に使えば、一体どれほどのおつりが来るだろう。
国益とはなにか。「国際社会」や「国際貢献」を語る人々が、実は「国賊」ということもありうる。9条を変えようと言う人は、戦争の実態を知っているのだろうか。だまされてはいけない。200万人もの若者を死に追いやった戦争から、まだわずか60年しかたっていない。むしろ9条は永遠に変えないことを、この際決議すべきだ”
西日本新聞から
“平和には戦争以上の力があります。そして、平和には戦争以上の忍耐と努力が必要なんです“
憲法12条に記された、不断の努力を実行してきたからこそ言える中村哲さんの言葉を、私たちは噛みしめながら私たちなりの不断の努力を続けていかなければならないと思います。