新自由主義政策が社会を変えてしまった
1980 年代から英国、米国、そして日本と新自由主義国家に転換されていきました。
(ヨーロッパ各国では国民がたたかいを続けています。北欧諸国は福祉国家を守っています) それまでの資本主義の弱点を社会主義的に修正した「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家主義をやめて、「小さな政府」にして「福祉・教育の切り捨て」をして「自助
努力と自己責任」にしたのです。国の財産である国鉄・専売公社・郵政などは民営化して企業にしてしまいました。企業の活動には規制を取り払い、「市場原理主義」で弱肉強食の競争をさせて負け組になった企業は淘汰されていきました。企業がもうけ第一主義の「非正規雇用(2,120 万人)」「派遣労働(300 万人)」を自由にできるように政府は法律を変え、その結果、ブラック職場が増え、ワーキング・プア(年収 200 万円未満の人。1,900 万人)、リストラ・過労死が急増しました。
日本では小泉政権から「郵政民営化」など新自由主義政策が本格化し、その後の安倍政権での 20 年間で政府がやってきたさまざまな破壊がコロナ禍で明らかになりました。
①医療・保健体制の破壊
医療・保健では全国の保健所が 850 から 472 に半減(東京では 71 から 31 に削減)。全国の感染病床は 9,060 床から 1,869 床に削減。コロナに対応できない保健・医療体制にしてしまいました。さらに公立と日赤の病院の3分の1の 424 病院(うち 24 病院は感染症病床あり)の統廃合計画を 2019 年 9 月に発表しています。
厚生労働省は保健所が認めないと PCR 検査ができないようにして医療崩壊にならないようにしていますが、国民は発症しないと検査を受けられません。ドイツや韓国などと全く違います。感染症の専門家は秋冬にはインフルエンザとコロナで大変な事態になり医療崩壊が起きると警告しています。また、コロナによる収入減で、全国の病院の 67%、東京の病院の 89%が赤字となり、6月のボーナスをカットした病院は全国で 34%になりました。
コロナ対策では、経済優先・人命軽視の新自由主義政策をとったトランプ大統領(米)やボルソナロ大統領(ブラジル)やボリス・ジョンソン首相(英)のコロナ対策は失敗して、感染者数は米国1位、ブラジル2位です。ボリス・ジョンソン首相は新自由主義政策を世界で最初に始めたサッチャー首相の言葉「この世界に社会(人々が助け合う公平・平等・連帯の社会)などというものはない、頼れるのは個人と家族だけだ」という言葉を主張していましたが、自ら感染して入院し手厚い看護によって生きながらえ退院した時には「社会はあった」と記者会見で述べたのです。新自由主義の敗北です。
新自由主義政策によって貧困が拡大し、格差社会となり、富裕層(都市郊外に一軒家)と貧困層(都市中心部でアパート、ホームレスは米国 57 万人、英国 37 万人、仏国 25 万人)の住む場所が分かれ、その貧困層の住む場所でコロナは広がりました。貧困層は健康保険証を持てない(米国3千万人)ためにコロナに感染しても病院に行けずに感染地帯になっています。
世界中で貧困地域が最も感染地域になっています。ニューヨークでは、メキシコ系などのヒスパニックの死亡者比率は全体の34%、黒人は 28%です。
②防災体制の破壊
防災体制では、全国 103 の測候所を無人化・自動観測にしたため、例えば御岳山の噴火を登山客に知らせることができませんでした。また国有林管理の営林署職員 81,000 人を 5,700人に削減したため、国有林は管理されず荒れ果てて大雨で土石流を生んでいます。長崎大学の国際保健学の山本太郎教授は「最近 20 年間の新型ウイルスの頻発は地球温暖化による熱帯雨林の縮小、人間の森林破壊などの影響が大きい」としています。
③教育・研究体制の破壊
教育・研究分野では、国立大学や研究機関への運営交付金が 2004 年の独立法人化から年1%ずつ減らされ 16%減となり、1,600 億円も減らされて基礎研究費がありません。(私立は経常費補助金の削減)。そのため基礎研究であるウイルスの研究者は減少しました。また、大学はお金がないために教員の補充が減り、ポスドクという大学院を出て博士号を取得しても就職できない研究者が一万人もいます。
GDP 国内総生産に占める国の教育費の割合は 2.9%でОECD加盟国 34 ヵ国中最下位で、そのため大学の授業料は 1970 年から 50 倍(物価は 4.2 倍のみ)になりました。
国立天文台の水沢天文台は無人化され、野辺山宇宙電波観測所は 40 人から今年 2 月に 26人にされ、2 年後には 13 人にされてしまいます。国は大学には軍事研究をすれば多額な研究費を出す、天文台には人を減らさないと脅してきたのを、国立天文台は拒否し、多くの大学も拒否しています。
政府による一斉休校措置で、休校中の子どもたちに教育格差が歴然と現れました。
以前から ICT による教育(生徒は1人一台のタブレットを持ち、学校でも自宅でもそれで学習できる)を受けていた私立「進学校」、公立・私立の中高一貫校、公立「進学校」では休校中もオンラインのタブレットによって毎日学習できましたが、そうした環境・設備・器具のない公立の学校ではほとんど学習を保障できませんでした。このために、夏休みを削って猛暑の中で授業をさせました。格差は夏休みにも出て、全生徒がタブレットを持っていて休校中も学習できた世田谷区は夏休みが 31 日間、渋谷区は 30 日間、タブレットがないために学習できなかった足立区・荒川区・葛飾区・江戸川区などの下町地域の区は 16 日間になりました。その他の区の夏休みは 23~24 日が多かったのです。
渋谷区内の全世帯の平均年収は 873 万円、世田谷区は 569 万円ですが、夏休みが 16 日間だった足立区などはみな年収 300 万円台の地域です。(2019 年の年収)朝日新聞に掲載されたデータでは、パソコン・タブレットを持っていない家庭は年収 400 万円以下では 30%、400~600 万円になると半減して 17%、600~800 万円が 12%、800~1,000 万円が 10%となっています。世田谷区や渋谷区はタブレットなどを持っていない家庭が少なく、また区の財政も豊かなので、タブレットのない家庭には無償で貸与しました。家庭の経済格差は学力格差を生んできましたが、それが一斉休校によって格差の拡大に拍車をかけたのです。(2020年11月19日)